システム行動学研究会 システム行動学研究会 (Systems Ethology)

招待講演



上川内あづさ

名古屋大学 大学院理学研究科

なぜ蚊は音で相手を見つけられるのか ― 配偶行動を支える聴覚メカニズム


講演詳細 動物は,まわりの環境から得た感覚情報をどのように理解し,それをもとに行動を決定しているのだろうか。この問いは神経行動学の中心的なテーマである。とくに,配偶者探索や求愛行動は,感覚と行動がどのように結びついているのかを考えるうえで,適した研究対象である。
 本講演では,蚊の「音を使ったコミュニケーション」に注目し,配偶者を見つける行動がどのようなしくみに支えられているのかを紹介する。蚊のオスは,メスが飛翔時に発する音を手がかりにメスを発見し,求愛すべく接近行動を開始する。近年の研究から,このような行動は,聴覚器の性質,脳内における情報処理,さらには聴覚器の感度を調節する仕組みなど,複数のレベルが組み合わさって成り立っていることが示されてきた。さらに,聴覚器の機能を制御する遺伝子発現にも顕著な雌雄差があることが分かってきた。すなわち,オスとメスで異なる行動が見られる背景には,分子レベルから神経回路に至る多層的な仕組みの違いが関与していると考えられる。
 本講演では,このような聴覚における性差を手がかりとして,蚊において音情報がどのように行動へと変換されるのかという問題を,神経行動学の視点から考察する。

キーワード:蚊,配偶行動,能動的聴覚,周波数選択性,脳


郡司ぺギオ幸夫

早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科

群れに潜む自由


講演詳細 動物の群れは,かつて向きを揃えることに基礎付けられてモデル化されてきたが,現実の群れでは軌道は頻繁に交叉し,個の自由と社会の制約はジレンマなく維持されると考えられる。それは因果関係の交差によって本質的な偶然が呼び込まれる縁起にも近いものだ。ここでは群れや,様々な系の縁起の連鎖がどのように理論化できるか,ベイズ・逆ベイズ推論や量子論理の拡張を通して議論する。

キーワード:Swarm,Inverse Bayesian,Quantum logic,Dependent origination,Soldier crab


竹村裕

東京理科大学 創域理工学部

工学的アプローチからのシステム行動学 ― マウスの気持ち,ちょっと分からせてもらおみゃあ ―


講演詳細 人間であれば,会話やアンケート,脳波や表情解析を通じて「何を考えているか」をある程度推定できる。しかしマウスは何も語らない。それでも我々は「マウスの気持ち」を知りたい。本講演では,人間の運動計測・バイオメカニクスに基づく筋活動推定・AIによる行動分析といった我々の得意技術を(やや力業的に)マウスへ適用し,「動きから内面を読む」工学的アプローチを紹介する。すなわち,しゃべらないなら動きで語ってもらう,という発想である。とくに着目しているのが,マウスの「ためらい行動」である。ある行動を起こしかけてやめ,別の行動へと切り替える――この一瞬の揺らぎは何を意味するのか。なぜためらったのか。そのとき脳では何が起きているのか。そんな無茶ぶりとも言える問いに対し,運動計測・行動推定・AI解析を組み合わせて迫っている最中である。本講演ではこれまでの試みと予備的成果を紹介しつつ,タイトルのとおり,「ちょっと分からせてもらおみゃあ」という軽妙なノリの裏で,システム行動学の新しい地平を切り拓く“かも”しれない試みをご覧いただきたい。

キーワード:医理工学際連携,スタートアップ,脳神経科学,機械学習,運動予測


深田陽久

高知大学 農林海洋科学部

魚類生理に基づく養殖技術の開発までの道のりとこれから


講演詳細 本講演では,魚類養殖の概要を解説した上で,摂餌行動に関する研究事例を紹介する。魚類養殖において行動を対象とした研究の多くは,魚の成長や生産性に直結する「摂餌行動」に焦点を当てている。飼料開発の観点では,「どのような飼料であれば魚が積極的に摂餌するのか」が長年の重要課題である。近年,魚類養殖の持続可能性向上に向けて,天然魚由来の魚粉に依存した飼料から,植物性原料や加工残渣由来原料を利用した飼料への転換が進められている。しかしながら,魚粉配合率を過度に低下させると摂餌性が低下し,十分な成長が得られない場合がある。本講演では,魚がどのように餌を認識し,摂餌行動を引き起こしているのかという視点から,持続可能な飼料開発に関する研究事例を紹介する。
 また,魚類養殖における給餌では「何を与えるか」だけでなく,「いつ,どのくらい与えるか」も重要な課題である。適切な給餌頻度や給餌量の設定は,成長や飼料効率のみならず,生産コストや環境負荷の低減にも関わる。本講演では,これらに関する研究事例を紹介するとともに,摂餌行動解析を基盤として開発された自動給餌技術や,現在取り組んでいる環境条件に応じた効率的な給餌管理手法についても紹介する。
 本講演が,システム行動学と魚類養殖との接点や,その融合によって生まれる新たな研究の可能性について考える機会となれば幸いである。

キーワード:ブリ,摂餌量,摂餌行動,養殖魚


前野ウルド浩太郎

国際農林水産業研究センター

行動が駆動する集団生活の最適化:サバクトビバッタの発育・繁殖戦略


講演詳細 集団生活は,協力や配偶機会の増加など多くの利益をもたらす一方で,資源の奪い合いや色恋沙汰など,いざこざも引き起こす。群れる生物はこうした問題をどのように解決しているのだろうか。本研究では,アフリカで大発生するサバクトビバッタを対象に,この問いに取り組んだ。その結果,彼らはシンプルな「移動」という行動を通して,集団生活を最適化していることが見えてきた。本演題では,最もプリミティブな観察手法である「目視」を駆使し,サハラ砂漠でのフィールドワークを通して得られた知見を紹介しながら,行動の奥深さについて議論したい。

キーワード:サバクトビバッタ,性的対立,サハラ砂漠,表現型可塑性,目視